世界にさまざまな国があれば、さまざまな「肉」もある。ケバブにするとおいしいラクダ、パンに挟んで食べるヒツジの脳みそ、美肌に効くアルマジロのシチュー。『世界のへんな肉』は、世界各地を旅した著者が、出会った動物たちとその「味」の思い出を綴ったエッセイ集。エジプトのおじさんに「ラクダやるから嫁にこい」と誘われてみたり、肉をめぐる人々とのエピソードにも心が和む。
動物の楽園アフリカでは、キリンのジャーキーなんてものがあるらしい。そんなアフリカで妻が行方不明になったことから、物語が動き出すのが『初恋と不倫』所収の「カラシニコフ不倫海峡」だ。絶望の淵にいた男のもとに、見知らぬ女からメールが届く。妻は生きていて、アフリカで女の夫と暮らしているという。愛する人に裏切られた男女の恋のてん末をメールのやりとりのみで描き出したのは、「最高の離婚」「カルテット」の脚本家・坂元裕二。とぼけたセリフと緊張感のあるストーリーが絶妙に絡み合う、期待を裏切らぬ快作だ。
所収のもう一篇「不帰の初恋、海老名SA」は孤独な少年と少女が主人公。『文学効能辞典』によると、このふたりのように周囲に溶け込めないと感じている人には『かもめのジョナサン』が「効く」らしい。この本は病や悩みに効く小説を、古今東西の名作からピックアップしてくれる文学のガイドブック。歯が痛いとき、月曜の朝が憂鬱なとき、つま先をぶつけたときの「薬」として読む、本との出会いが新鮮だ。
1.『世界のへんな肉』 白石あづさ 新潮社 ¥1,296
2.『往復書簡 初恋と不倫』 坂元裕二 リトルモア ¥1,728
3.『文学効能辞典』 フィルムアート社 ¥2,160
文・矢部智子
ライター。著書に『東京建築散歩』『東京公園散歩』など。「食と旅」で思い出すのは、エストニアでのランチ。まったく読めないメニューを「えい!」と指差し出てきたのは洗面器サイズの揚げた魚。いい思い出です。