YEBISU STYLE

online

タンポポ

ラーメンと映画

 近所の中華料理店がシャッターに「しばらくの間、お休みします」という小さな貼り紙をしたまま、ずうっと商売を休んでいる。少し前に『ブルータス』が「町の中華」という特集をやっていたけれど、わざわざ越境してまで出かけて行くような特別な食事ではなく、家の近所にあっていつでもふらりと入れる中華料理店のラーメンや餃子や肉野菜炒めライスなどこそが、それぞれの「町の中華」であるはずだ。誰かにわざわざ薦めることもないくらい、いたって普通の、でもそこを愛して通う人がいる中華料理店。

 北海道生まれのぼくにとってラーメンは塩が基本で(これは道内の地域や世代によっても違うだろう)、子供の頃に味噌ラーメンが流行り始めたが、やっぱり塩がいちばんと思ってきた。東京暮らしをするようになって初めて、中華そばを食べた。麺もスープも物足りない感じがした。いまはその味が基準になっている。だからぼくはラーメン好きではなくて、中華そば好きなのだと思う。その物足りなさも含めて、ずうっと閉まったままの店のものがいちばん好きだ。

 書店で時間を潰していたら面白い洋書があった。ロンドンの「hato press」という、おそらくは小さいに違いない出版社から出ている『Cooking with Scorsese and Others』という本で、映画の料理シーンのスチル写真を集めて並べたものだ。1巻と2巻があり、そのどちらにも伊丹十三の『タンポポ』が取り上げられている。粗悪な紙に印刷されたモノクロ写真なのにも関わらず、『タンポポ』に出てくるラーメンは魅力的だった。実はその書店は例の中華料理店から近く、2軒はぼくの散歩コースのひとつである。いまは休業中だから帰りにあのラーメンを食べることはできない。家で『タンポポ』を観直すしかなかった。



ys49_andcinema1.pngあんなによく食べていたラーメンの写真は、探してみたがなぜか撮っていなかった。かわりに餃子の写真を。

文・岡本 仁
1954年北海道生まれ。編集者。マガジンハウスにて『BRUTUS』『relax』『ku:nel』などの雑誌編集に携わる。2009年ランドスケーププロダクツに入社し、「BE A GOOD NEIGHBOR」を担当。坂口修一郎との共著『ぼくらの岡山案内』が発売中。

YEBISU STYLE 最新号

YEBISU STYLE最新号は恵比寿ガーデンプレイス内各エリアで入手することができます。また、WEB上でもご覧いただくことができます。

最新号はこちら