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真夏の夜のジャズ

チェロと映画

 生まれてはじめてバッハの無伴奏チェロ組曲を生演奏で聴いた。場所は廃校になった小学校の校庭。

 そこで『グッドネイバーズ・ジャンボリー』というイベントがはじめて開催されたのは2010年だったと思う。野外ステージで音楽を、そして校舎では工芸のワークショップなどを楽しむ夏の集まりだ。第一回は未知の要素も多かったからか、素人のぼくまでもがDJをやることになった。しかも記念すべき第一回の開場と同時に、選んだ曲が最初に大音量で流れるのだ。責任は重大である。ぼくにDJを依頼したのは、イベントの主宰者である坂口修一郎くんだった。彼はダブルフェイマスというバンドで、トランペットとバルブ・トロンボーンを担当している。『真夏の夜のジャズ』という映画の冒頭に登場するジミー・ジュフリー3が頭に浮かんだ。このトリオのメンバーであるボブ・ブルックマイヤーが吹くのは、坂口くんと同じバルブ・トロンボーン。だからこの曲にしたかったのだけれど、残念なことにレコードを持っていない。どうしたものかと考えあぐねているうちに、もうひとつこの映画で印象的なシーンを思い出した。チコ・ハミルトン・クインテットのチェリストであるネイサン・ガーシュマンがリハーサルの合間に、部屋でひとりバッハの無伴奏チェロを弾くシーンがある。たぶんニヤリとするのは坂口くんだけだろうが、かけるべきはこの曲だ。

 そして、それは毎年の恒例となり、最初のDJが誰であろうと1曲目はバッハ。第7回の今年はついに生演奏になったという次第。そういえば、この映画を監督したバート・スターンの本職はファッションフォトグラファーだということは知っていたが、映画『ロリータ』のポスターも彼の撮ったものだということには、まるで気づいていなかった。

ys48_andcinema1.pngJ.S.バッハの「無伴奏チェロ組曲第1番ト長調プレリュード」を弾いてくれたのはロビン・デュプイ。

文・岡本 仁
1954年北海道生まれ。編集者。マガジンハウスにて『BRUTUS』『relax』『ku:nel』などの雑誌編集に携わる。2009年ランドスケーププロダクツに入社し、「BE A GOOD NEIGHBOR」を担当。読書エッセイ集『果てしない本の話』(本の雑誌社)が発売中。

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