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心に響く愛の言葉。詩人、菅原敏が選ぶ珠玉の8編。

いにしえの恋愛詩を新たに超訳した菅原敏さん。『かのひと 超訳世界恋愛詩集』から抜粋した、時を超えて蘇る愛の詩を本人の解説と共にご紹介。

愛の最良の衣装 それは信頼を装うこと
ふたりの嘘が必要なんだ

「若い女が嘘をつき」
ウィリアム・シェイクスピア

シェイクスピアのソネット(十四行詩)から抜粋。この後に「信じたふりがよく似合う 年の離れたふたりが笑う」と続きます。世界中、いつの世にも通じる年齢差と恋について、シェイクスピアが残した流石の一編。恵比寿界隈でグラスを鳴らしている年の差カップルたちにもぜひ読んで欲しいものです。

たった一度でも
愛の腕に抱かれたことがあるなら
おまえの人生が
さげすみ わらわれ 安物になる ことはない

「一度でも愛の腕」
テオドール・シュトルム

19世紀、ドイツを代表する抒情詩人シュトルムの一編から。どんなに辛い境遇にあろうとも、一度でも本当の愛に抱かれたことがあるなら、どれほど落ちぶれようと何も恐れることはないという救いのような言葉でもあり、同時に「本当に愛されたことが一度でもあるのか?」とあなたに問いかけています。

愛される1 時間
それを味わうために
わたしたちは苦悩で
代金を支払い続ける
その恍惚の一瞬に
心震えれば震えるほど
より多くの苦痛を
支払わねばならぬと
知っていても

あのひとの指先は

「愛される1時間」
エミリー・ディキンソン

心から愛される一時間を手に入れられるなら、あなたは何を支払いますか? ありとあらゆる苦痛を支払って、手に入れた時間はほんの一瞬で終わってしまう。それでも私たちは愛する人の指先にすがりつき、また求め繰り返す。今でいう「ひきこもり」のような暮らしの中で、詩作にのみ没頭して生きた女流詩人の一編。

あなたの白い腕だけが
わたしのすべての地平線

「地平線」
マックス・ジャコブ

ベッドの上から、無限に広がる大地のように。一枚の絵画のような、視覚的イメージがすっと浮かびたつ一編。これは抜粋ではなく、この2行のみで完結する詩です。詩では食えないため、生活の為に絵を描き始め、次第に名声を馳せていったマックス・ジャコブ。細くて華奢な地平線に身を横たえて夜を待てば、どんな夢を見るのでしょうか。

死んだ女より 悲しいのは 忘れられた女

「世界でいちばん悲しい女」
マリー・ローランサン

ピカソをはじめ、多くの画家や詩人にミューズとして愛されたマリー・ローランサン。新進画家、詩人として認められていく中で、次第に同性愛に目覚めていった彼女の代表的な一編からの抜粋です。捨てられた女より悲しいのは、生涯ひとりの女。生涯ひとりの女より悲しいのは、求められない女。誰でもきっと一度は、世界でいちばん悲しい女。

とびきりきれいな彼女の心
手に入れるには お金や宝石
いくら積んでも無駄なんだ
愛の喜び 贈ってやらなきゃ
おまえ自身を 払ってやらなきゃ

「僕は彼女と自由に生きる」
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ

「ふたりで食事 テーブルの下 彼女が愛する男の足を 自分の足置きにするとき 僕は本当に満ち足りて 本当に自由だ」と続きます。恋多き詩人ゲーテは晩年の74歳の頃、19歳の女性に失恋してドイツ最大の恋愛詩「マリーエンバートの悲歌」を残しました。「死ぬまで恋して自由に生きろ、でも、そりゃ傷つくよ」と老ゲーテは言うでしょう。

僕は死にたくない
僕のくちびるが 君のくちびるに
僕のゆびさきが 君のからだに
僕の声が 君の耳に
僕のまなざしが 残りのすべてに
溶け合うまで
くらやみでさがす ふたりの一冊
埋められぬ過去を埋めるまで
僕はくたばりたくない

「僕は死にたくない」
ボリス・ヴィアン

幼い頃より心臓に疾患を抱え「40歳になる前に死ぬ」と言い続けていたボリス・ヴィアン。詩や小説を書き、ジャズトランペッターとしても活躍した。心臓に負担をかけるトランペットを吹き続け、言葉通り39歳で死んだ彼はもしかしたら、全てふたり溶け合い、埋められぬ過去を埋めきって、この世を去ったのかもしれません。

あなたは わたしの熱い肌
触れもしないで 世界を語る
ほんとの世界は ここにあるのに

(やは肌の あつき血汐に ふれも見でさびしからずや 道を説く君)
与謝野晶子

思いを寄せ合いつつ、一線を超えない私たち。でも、そんな時間も振り返れば愛しい時間になるのでしょう。当時はタブーとされた官能的な歌集「みだれ髪」を記した与謝野晶子。略奪婚の末に結婚し、甲斐性のない夫(与謝野鉄幹)を自らの筆で支え、12人の子供を出産し、日本初の男女共学校を創設。肝っ玉母さん晶子の乙女時代が蘇ります。

ys57_poems_1.gif選/解説 菅原 敏(すがわら びん)
詩人。2011年、詩集『裸でベランダ/ウサギと女たち』を発表。国内外での講演や朗読、雑誌連載、インスタレーションなど詩を軸に幅広い表現活動を展開。東京藝術大学デザイン科非常勤講師。/『かのひと 超訳世界恋愛詩集』(東京新聞)¥1,836

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