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『チャンス』(1979年)

庭と映画

 庭いじりの愉しみというものがよくわからない。ヘッセやチャペックの本を読んでも、一向に自分もやってみたいと思わないのだ。植物の名前も、松とかポプラとか、あるいはチューリップとかバラのようなものならわかるという程度。植物園に行くのは好きだ。あるいは大きな庭園なども。植物学者や庭師には尊敬の念を抱くのに。

 庭といえば『チャンス』が頭に浮かぶ。ピーター・セラーズの遺作がハル・アシュビーの監督作品というだけで素晴らしい。久しぶりにDVDで観直したら、ある場面でひとつ思い出したことがある。名前を訊かれて「チャンス・ザ・ガーデナー」(庭師のチャンス)とピーター・セラーズが答えると、シャーリー・マクレーンがそれを「チョンシー・ガーディナー」という姓名と聞き違えるシーンだ。

 友人が若い頃からよく使っていたというLA のホテルに泊まることになった。日系アメリカ人たちが多く住み、日本語も通じるし、朝食も日本食が選べる。部屋は広い。空港に近い。友人がいろいろな利点を挙げて薦めてくれたから、泊まってみようかという気分になった。『ニュー・ガーデナー・ホテル』という名前だった。そういえば日本からの移民は農業に従事するか庭師をやる人が多かったと、誰かに聞いたことがあったかもしれない。だからガーデナーなのだろうと想像した。敷地内に綺麗な日本庭園などもあるのかもしれない。

 ところが行ってみると、ガーデナーではなくガーデナだった。ガーデナという地区にあるので「ガーデナ」だったのだ。部屋はたしかに広かった。いや、広過ぎる。心細くなるほどに。なかなか寝付けずに、うとうとしてはまた目が醒める。窓から外を見たら、庭らしいものは皆無だった。

ys55_andcinema.jpg窓からの眺めは「殺風景」という言葉がよく似合う。でも、ぼくはこういう景色が嫌いではない。居心地は良かったし、朝食はアメリカン・ブレクファストか和朝食を選べた。

文・岡本 仁
1954年北海道生まれ。編集者。マガジンハウスにて『BRUTUS』『relax』『ku:nel』などの雑誌編集に携わる。2009年ランドスケーププロダクツに入社し「BE A GOOD NEIGHBOR」を担当。最新エッセイ『東京ひとり歩き ぼくの東京地図。』が発売中。

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