YEBISU GARDEN PLACE

  • 文字の大きさ標準サイズ
  • 文字の大きさ拡大サイズ

YEBISU STYLE

online

『ランデヴー』(1976年)

街並みと映画

 ぼくは散歩が好きだ。座ってする仕事に飽きるとすぐに外に出たくなる。だいたいは気晴らしということ以外に特に目的はないから、先を急いでいる人が目もくれないような街並みを、たぶんたくさん見ているのかもしれない。そしてときどき気が向いたら、ポケットから「iPhone」を取り出して写真を撮る。携帯電話を「iPhone」にしてから、ぼくは写真を撮ることがとても好きになった。よく「自分の目で見ることが大切」というお説教を聞かされるけれど、そこに目では捉えきれないものが写っているのが面白いから撮る。人の目はすべてを見ていても、記憶に残るのは興味あるものだけで、興味を持って眺めていたビルの隣が空地になってはじめて、そこに何があったかを思い出そうとするのだ。

 前に原宿あたりを歩いていて、代々木体育館の写真を撮った。なんだかいつもと違って見えた。立ち止まって考える。隣は建築現場。なるほど、あのマンションが建て替えのために壊されたから、ここから代々木体育館が見えているのか。東京の都心部の街並みは根こそぎ変化するので、きっとこれからもこういうことばかりが続くのだろう。

 ずいぶん昔にムッシュかまやつとパリの話をしたことがある。ムッシュは「建物が何百年も変わらないでそのまんま在るってすごいよね。想い出を消すことを許さないんだから」と言っていた。

 パリの街並みを題材にした傑作群の中でぼくがいちばん好きなのは、クロード・ルルーシュ監督の短編映画『ランデヴー』だ。フェラーリの車載カメラでワンテイクで撮影した、早朝の凱旋門からサクレ・クール寺院までの映像。車は信号を無視して一度も止まらない。

ys54_andcinema01.gifムッシュは「昔のまんまの建物を見ていると、解決しないといけないという気になるよね。東京だとずっと避けて終わっちゃう」と続けた。ムッシュがこの世を去って1年だ。

文・岡本 仁
1954年北海道生まれ。編集者。マガジンハウスにて『BRUTUS』『relax』『ku:nel』などの雑誌編集に携わる。2009年ランドスケーププロダクツに入社し「BE A GOOD NEIGHBOR」を担当。最新エッセイ『東京ひとり歩き ぼくの東京地図。』が発売中。

YEBISU STYLE 最新号

YEBISU STYLE最新号は恵比寿ガーデンプレイス内各エリアで入手することができます。また、WEB上でもご覧いただくことができます。

最新号はこちら
ページTOP