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新訳源氏、異色の子育て小説、そして足元に広がるキッチュな美。

 日本文学史上最大のロングセラーといえば『源氏物語』である。平安時代、ひとりの女性作家が「恋」をテーマに書き上げた物語は、これまで多くの文学者たちが訳してきたが、その最新バージョンが角田光代によって更新された。大胆に敬語表現を削った話し言葉のような訳文からは、匂い立つような光源氏の美しさや女君たちの表情、恋の情景までありありと目に浮かぶ。そして千年の時を超えて「共感」できる、物語の強度に驚かされる。

 男と女にさまざまな恋のかたちがあれば、父と娘にもさまざまな愛のかたちがある。『彼の娘』は美術や演劇の世界で異彩を放つ飴屋法水による私小説風の一篇。「なんでお父さんは叱らないの?」「んー、わかんないから」「なにが?」「叱り方がわかんない」。先鋭的な表現者である父に、素朴な問いかけをする娘。「常識」や「正しさ」から距離をおき、娘と向き合う父。ふたりの他愛のない会話が、倦んだ価値観に揺さぶりをかける静かな傑作だ。

 彼の娘は、歩きはじめて3年ほど、外を裸足で歩いていたという。写真の中の裸足の少女に教えてあげたいのが『足の下のステキな床』。デパートの足元に咲いた大きな花柄、純喫茶を彩るアールヌーヴォー、教会の瀟洒なモザイクタイルなど、1970年代を中心にビルや喫茶店、美容院などを彩った、かわいくてキッチュな模様の床を集めたキュートな写真集だ。明日から下を向いて歩けば、気づかなかった足元のロングセラーに出会えるかも。

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1.『源氏物語(上)』角田光代訳 河出書房新社 ¥3,780

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2.『彼の娘』飴屋法水 文芸春秋 ¥2,592

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3.『足の下のステキな床』グラフィック社 ¥1,728

文・矢部智子
ライター。著書に『東京建築散歩』など。角田源氏が収められた「日本文学全集」は、ほかにも『宇治拾遺物語』を町田康が、『平家物語』を古川日出男が新訳を手がけるなどロングセラーの宝石箱状態。ぜひ!

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