医学用の洋罫紙をキャンバスに描かれた、サンシュユの小さな朱い実。画面いっぱいに深緑を広げたユヅリハの葉。消え入りそうに淡いユキヤナギの白い花。『新編 百花譜百選』は、詩人で医学者の木下杢太郎が晩年に描いた100の植物画を集めたもの。どの草花も可憐で心なごむが、ときは戦時中のこと。灯火管制の闇の中、病いに冒されていた杢太郎は夜毎つかれたように花の絵を描き続けたという。読み込むほどに描かれた「生」が濃度を増す、詩情あふれる植物図譜だ。
薄暗い部屋で、時間を忘れてサボテンと「二人」うっとり過ごす。 そんな植物屋店主が登場する『ボーイミーツガールの極端なもの』は、40歳下の青年に初恋をしたおばあさん、動画の中の松田聖子に恋した引きこもりの青年など、年齢も性別も異なる男女のさまざまな恋を集めた短編集。物語の合間に添えられているのは、個性的なサボテンの写真とミステリアスなその生態。サボテンと恋のかたちが響き合う、高純度のラブストーリーだ。
世の中には常識にとらわれない多様な愛があり、また多様な「ねこ」の見方もある。 というわけで3冊目は、子ども、犬、ミミズなど、いろんな動物から見たねこを描いた絵本『ねこってこんなふう?』。ネズミが見るモンスターのようなねこ、金魚が魚眼で見る巨大なねこ、ハチが見る4原色のねこ......。ページをめくりながらさまざまな生き物の「目」を体験する、魔法のようなトリップ感が楽しい。
1.『新編 百花譜百選』木下杢太郎画、前川誠郎編 岩波文庫 ¥1,663
2.『ボーイミーツガールの極端なもの』山崎ナオコーラ イースト・プレス ¥1,728
3.『ねこってこんなふう?』ブレンダン・ウェンツェル作、石津ちひろ訳 講談社 ¥1,620
恵比寿三越2F 八重洲ブックセンターで取り扱い中。
文・矢部智子
ライター。著書に『東京建築散歩』『東京公園散歩』など。恵比寿近くで植物を感じるなら、自然教育園がおすすめ。自然本来の姿を残したワイルドな風景は、いわば白金台の孤島。探検服で挑みたくなります。