YEBISU GARDEN PLACE

  • 文字の大きさ標準サイズ
  • 文字の大きさ拡大サイズ

YEBISU STYLE

online

『放浪の画家 ビロスマニ』(1969年)

飲食店の絵

 先日、大分県日田市にある小さな映画館に行った。そこで映画を観たのだが、本編上映前の予告編にとても気になる作品があった。グルジア(ぼくはいまだにジョージアとこの国を呼ぶことに馴染めない)の実在の画家の人生を題材にした物語のようである。絵の道具をいつも持ち歩きながら、その日の食事や酒とひきかえに店の看板や壁に飾る絵を描く。画家の名前はニコ・ピロスマニだった。

 ぼくは飲食店に飾られている絵を眺めるのが好きだ。すぐに思い浮かぶのは、東横線の学芸大学駅近くにある〈マッターホーン〉。ここは洋画家の鈴木信太郎の絵を何枚も飾っていて、ときどき作品の掛け替えもしているので、まるで鈴木信太郎の個人美術館のようだ。さらにクラシカルなケーキやソフトクリームが美しい絵とともにあるのだから、休みの日に電車に乗って行く価値がある。

 もう1軒、残念ながら数年前に閉店してしまったが、銀座7丁目にあった〈いわしや〉という鰯料理専門店もすばらしい絵が飾られていた。もともと朝日新聞の文化部にいた人物が開いた店なので、画家との交友もあったのだろう。鈴木信太郎や三岸節子など、錚々たる顔ぶれの画家たちが鰯を題材にした絵を贈ったようだ。中でもぼくがいちばん好きなのは、マックス・フーバーというスイス人グラフィックデザイナー(ミラノに渡りリナシェンテやオリベッティのための広告デザインを手がけた)が、この店の鰯料理に感激して残していったという作品だった。〈いわしや〉に入り、この絵が飾られた壁の前にある席に座れた時は、とても嬉しかった。でも、作品の下のテーブルだと、近すぎるし見上げないと見えない。しばらく通っているうちに、ようやくそのことに気づいた。あの絵はいまどこにあるのだろうか。もう一度、観たいなァ。

ys56_andcinema01.jpgこれは猪熊弦一郎の描いた猫の絵が観られる席。高松市にある〈くつわ堂総本店〉の喫茶室にある。ここも絵をじっくり眺めるために、いまは真下に座ることはない。

文・岡本 仁
1954年北海道生まれ。編集者。マガジンハウスにて『BRUTUS』『relax』『ku:nel』などの雑誌編集に携わる。2009年ランドスケーププロダクツに入社し「BE A GOOD NEIGHBOR」を担当。鹿児島案内シリーズ第3弾『みんなの鹿児島案内』が発売中。

YEBISU STYLE 最新号

YEBISU STYLE最新号は恵比寿ガーデンプレイス内各エリアで入手することができます。また、WEB上でもご覧いただくことができます。

最新号はこちら
ページTOP