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『アダプテーション』(1985年)

蘭と映画

 蘭と言われても、舞台女優の楽屋とか開店したてのスナックのカウンターとかに飾られた胡蝶蘭しか思い浮かばなかったのだが、5年ほど前に福岡の「PLACER WORKSHOP」という蘭の専門店を知ってからは、野生の原種に近い蘭の美しさに惹かれるようになった。その店をやっている若い店主も、胡蝶蘭を中心に扱う花屋の息子として、仕入れにしぶしぶつきあった際に、はじめて原種に近い蘭をナーサリーで見て、その魅力にはまったと言っていた。

 スパイク・ジョーンズの映画『アダプテーション』に出てくるオーキッド・ハンターのジョン・ラロシュのような、保護区で禁止されている蘭を盗み採るくらいの特別な感情を抱く人間が生まれるのも当然だと思えるほど、この花は妖しい。蘭は英語で「オーキッド」だけど、その語源はギリシャ語の「睾丸」であるらしい。店名にワークショップとついているので理由を尋ねてみたら、自分の好きな器に蘭を移し替える方法を教えてくれるというので、骨董店で買ったポルトガルのボウルを持ち込んで最初の蘭を買った。フウランの一種だというそれは、家に持ち帰って半月後に花を咲かせた。それからおよそ2週間は、外出から戻ると家中に甘い香りが漂っていた。

 温度と湿度の管理が難しいと言われていたが、やはり冬を越させることができず、その蘭は枯れてしまった。また別の蘭を買ったのだが、そちらはすぐに虫がわいてしまい、どうにも手がつけられなくなって捨てた。3つめの蘭はまだ家にあるし枯れてはいないが、一向に花を咲かせてくれない。どうやらぼくには植物を育てる能力が備わっていないらしい。なのに、実はいま睡蓮を育ててみようと考えている。問題は花が咲くのが8月ということだ。例年8月は、ぼくはほとんど自宅に居ない。

ys50_andcinema1.pngボウルに移し替えて水をたっぷりと霧吹きで与えてワークショップは終了。ここまでは完璧だったのになァ。

文・岡本 仁
1954年北海道生まれ。編集者。マガジンハウスにて『BRUTUS』『relax』『ku:nel』などの雑誌編集に携わる。2009年ランドスケーププロダクツに入社し「BE A GOOD NEIGHBOR」を担当。最新エッセイ『東京ひとり歩き ぼくの東京地図。』が発売中。

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