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酒場の風景いろいろ、そして、言葉の包容力を発見する書。

 「酒の害は楽しすぎることにある」とは、『居酒屋兆治』を著した山口瞳の言葉だ。酒と酒場へのあふれる思いを綴った『酒呑みの自己弁護』には、仕事で名コンビを組んだ柳原良平とバーで大騒ぎしてボーイに追いかけられたり、屋久島の酒場に銀座の店名をつけてはしご酒したりする、愛すべきエピソードがずらり。

 「(酒をやめると)もうひとつの健康を損なってしまうのだ」とうそぶく、ほろ酔い気味の言い訳がまた楽しい。昭和の酒場から一転し、カクテルグラスで乾杯する美女たちで幕を開けるのが松田青子の小説「ボンド」。『ワイルドフラワーの見えない一年』には、歴代のボンドガールたちが懇親会でぶっちゃけトークをはじめる本作をはじめ、3年間着ていなかったセーターが断捨離されたあと自ら安住の地を選ぶ「ハワイ」など、50の物語を収録。思わず「えっ?」と声が出る斬新な発想と、鋭利なユーモアが渦巻く、青子ワールドに酔いしれたい。

 収録の「英作文問題1」は教科書の翻訳文体の違和感をモチーフにした掌編だが、学校では教えてくれない外国語の豊かさを教えてくれるのが『翻訳できない世界のことば』だ。たとえば、涙ぐむような物語にふれて胸が熱くなることをイタリア語で「コンムオーベレ」と言うのだそう。母国語で伝えられない思いも、ほかの国の言葉なら伝えられるかもしれない。そんな世界の言葉の多様性と包容力に「コンムオーベレ」する、いつまでも大切にしたい一冊だ。

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1.『酒呑みの自己弁護』 山口瞳 ちくま文庫 ¥1,512

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2.『ワイルドフラワーの見えない一年』 松田青子 河出書房新社 ¥1,620

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3.『翻訳できない世界のことば』 エラ・フランシス・サンダース著、前田まゆみ訳 創元社 ¥1,728

恵比寿三越2F 八重洲ブックセンターで取り扱い中。

文・矢部智子
ライター。著書に『東京建築散歩』『本屋さんに行きたい』など。30以上の言語を集めた『翻訳できない~』には、日本語の「ボケっと」「木漏れ日」も収録。日本語だけの表現と知ると、大切に使いたくなるものです。

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